「なぜ今さらPCを買うのか」と言ったティムクックの真意と、的外れな設計思想の話

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Apple の CEO、ティム・クックが iPad Pro の発売イベントで「なぜ今さらPCを買うの?」と発言したことが話題になっています。

まだ東京で消耗してるの?」ばりにキャッチーな台詞ですねぇ。いい響きです。

とはいえ、MacBook や iMac を製造販売する会社のトップの発言としてはかなり刺激的な内容ですが、この真意はどこにあるのでしょう。

「PC」って何だっけ?

ところで、ティム・クックが言った「PC」。

Cook氏は、ロンドンのコベントガーデンにあるApple Storeの旗艦店でiPad Proの発売に合わせて開催された特別イベントの中で、「もしPCを検討している人がいるなら、なぜ今さらPCを買うのか、と思う。いや、真面目な話、どうして買うのだろう?」と、記者らに語ったと報じられた。

この「PC」が何を指しているのか考えておこうと思います。

正解はわかりませんが、わざわざ自社製品をディスる理由はないので、おそらく競合他社である Microsoft の Surface Pro 4 あたりを指して言ったのではないか、という想定から話を進めていきます。

Surface Pro 4 はいわゆるタブレット型の PC です。

画面をタッチして操作するタブレットとして使用することだけでなく、タイプカバーと呼ばれるキーボード一体型の液晶カバーを取り付けることで、クラムシェル型 (折り畳んだり開いたりできる、いわゆる普通のやつ) のノート PC と同じような操作が行えます。2 in 1 などとも言われていますね。

最近のモバイル PC の設計思想

すこし視野を広げていくと、最近のモバイル PC は Surface と同じような 2 in 1 の思想で設計されているものが多くあります。キーボードと画面が分解できるヤツです。

タブレットとしても使える PC」とか「本格的なパソコンとしても使えるタブレット」とかが売り文句になっていたりしますが、お前は PC なのかタブレットなのか。

PC としての利用価値を広げる、という考え方で「あれもこれも」できるようなものを作っているのでしょうが、その結果 PC とタブレットの区別がつかなくなってきた、というのも実情です。

で、結局、タブレットと PC のアイデンティティって何なんでしたっけ?

ハードウェアの比較をしても見えてこない

ノート PC やタブレットの外観、タッチパネルやマウスのインターフェイス、デザインなどの見た目の良し悪しを比較しても、おそらく今回の真意は見えてこないでしょう。

違いはハードウェアではなく、ソフトウェアです。

OS やクラウドネットワーク環境を取り巻くプラットフォームです。

ここを掘り下げ比較していくと、現在のPC/モバイル市場の背景と Apple がおそらく目指している未来、そしてティム・クックの発言の真意が見えてきそうな気がします。

モバイル OS の絶大な優位性

モバイル OS は、テンプレート化されたタスクを実施するには圧倒的に有利なプラットフォームです。

全画面表示、シングルウィンドウ、タッチ操作。

iOS、Android のモバイル OS は、利用者の IT リテラシーのハードルを大きく引き下げることに成功しました。

要は、「誰でも簡単に使えるようになった」ということです。

パソコンが普及したときも似たようなことが言われました。

「Mac / Windows にょってパソコンが誰でも簡単に使えるようになった」

しかし今回のモバイル OS が誰でも使えるようになった、という変化は劇的です。

  • 無駄な作業が極力排除されたタッチ操作を主軸とした UI
  • アプリ単位の機能管理、パーソナライズ
  • クラウドでのデータ連携、データ管理の省略化

などなど。

「マニュアル車」と「オートマ車」に例えられたりもしますが、むしろ「自分でエンジン整備しなくちゃいけない車」と「自動運転のクルマ」くらい劇的なイノベーションも随所にあります。

どちらが便利、不便という比較ではなく、どちらの使う楽しみも否定しません。ただ、ユーザーが関わるところが大きく異なる、という視点でこの違いは絶大です。

「家でも仕事でも同じ」である必要なんてなかった

とにかく簡単に決められて、自動管理されて、「楽」になったコンピューターが認められている現在。

年賀状のためにパソコンを買う時代はとっくに終わりました。

パソコンの商品力、営業力は健在かもしれませんが、実態として家庭でのコンピューティング(消費コンピューティング、とでも言いましょうか)の技術はほぼ完全にモバイル OS でカバーできます。

「Web」「メール」「ゲーム」「SNS」「コミュニケーション」などなど。

ほとんどが片手に収まるタッチパネルで完結することができるようになりました。

このマーケットにはモバイル OS のプラットフォームが圧倒的に有利です。

PC とモバイル OS を「使い分け」をされたとき、用途がなくなった一方はいずれなくなります。

仕事の道具趣味の道具を一緒に考えていた時代が終わっています。

仕事だって変わっていく

ビジネス利用でも似たようなことが起こっています。

過去記事で、iOS を導入することでビジネスコストを削減した、という話題を取り上げました。

Macにしたら社内のサポートコストが減りました、とか言ってる企業はさっさと社員からMacも取り上げたほうがいい
IBMがMACを導入したら社内サポート工数が圧倒的に下がったという趣旨のニュースが上がっていますね。 Macユーザー大勝利!Windows(笑) というようにも読み取れますし、実際にそう読み解い...

完全な置き換えではなく、PC とモバイル OS を組織機能的に使い分けて配備する、という意味で、ビジネスの現場にもプラットフォームとしての PC が不要な時代が迫っています。

営業職が外回り営業に iPad を使っている、という話も珍しくなくなりました。Salesforce などのオートメーションサービスがモバイル環境への対応を続々と進めている昨今、業務プロセスに PC を必須とするものはどんどん減少しています。

お仕事の中で「PC じゃなければ実現できない要素」がなくなっています。

そうすると、PCメーカーは商品が売れなくなって大慌て、なのでしょうか。

ティム・クックはそうではなく、これをを好機と見ているのでしょう。

家や仕事場がそんな状況だから、パソコンが使えない人が出てくるなんて当たり前。今後は工業機械のように可能な限り標準化、テンプレート化し、採用した人材には最小コストで使い方を教育すればいいんです。

そのために、アプリケーションはシンプルで各業務に標準化されたものを用意する。そのための開発は必要だし、実現するハードウエアも必要。

それが iOS であり、iPad Pro が最適だ、と。

結局・・・

この背景を考えると「本格的なパソコンとしても使える」などという設計思想が将来的な市場に対してまったく的外れなのではないか、という疑問がわいてきます。

ティム・クックの発言の中の「iPad Pro」と「PC」の比較は結局、「iPad Pro」と「Surface Pro 4」ではなく、「iOS の目指す未来」と「Windows 10 の目指す未来」が比較されていたのではないかと思います。

PC との使い分けをアピールすることによりコンシューマ市場もビジネス市場にも大きな優位性を発揮できるモバイル OS。

これを主軸に未来へのメッセージを発信する Appleと、一方で PC と Windows の過去を捨てられず攻めきれない Microsoft。

そう捉えると、ティム・クックの発言はビジネスリーダーとしてパーフェクトな発言なのかもしれません。

で、僕らの未来は?

ただ、消費者の未来が明るいかはわかりません。

確かに簡単になったコンピューティングがビジネスを変えるでしょう。

現場の業務設計を一部の優秀な PC 技術者が行い、その他の従業員はタブレットを使って仕事ををしてもらうような「リテラシー格差に基づく役割付け」を行うことで、ビジネスはより効率的に回るようになるかもしれません。

1時間のミーティングのために一日かけてパワポのスライドを作ることもなくなり、工場のオートメーションのように、アウトプットが定形化、自動化されて検品だけに人の手を加える簡単なお仕事。ついでに方眼紙Excelもなくなる。素敵な未来です。

先日のIBMの話題もこの流れが背景に読み取れます。

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売る側、使わせる側の未来としては最高の未来のようです。

使う側、使われる側は?

今回の話。明るい未来に向けての発言で、Apple の思想、戦略にのっとった発言であることには間違いないのでしょう。

iPad がすべての仕事をリプレイスできるとは思っていません。ただ、iOS の優位性は前述のとおり、多くは iOS のようなサンドボックス型、シンプル UI、低メンテナンスコストの OS へと置き換わるでしょう。

できない人にはできない人なりの道具を。

ただ、それってちょっと「楽しくない」って思ってしまうのは私だけでしょうか。たぶん古い考えなんでしょうね。。。

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以上、最後までお読みいただきありがとうございました。

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