「尿液晶」という言葉があります。
パソコンやスマートフォンのディスプレイが黄色みを帯びて見える状態です。
製品の不良や個体差が原因の場合もありますが、多くは機種ごとの全体的な設定の差による見え方の違いが原因だったりします。いずれもひとまとめに「尿液晶」と呼ばれ、この俗称からも伝わるように敬遠、軽蔑の対象として扱われています。
見え方に差があるのは事実
こういった液晶の発色の違いについて、液晶を二つ並べて比較した写真などを見かけたりします。確かに色の違いはあるようです。
この話題が上がるのは主にスマートフォンを対象にしたもので、パソコンを対象にしたものはほとんど見かけません。
パソコンに尿液晶は (ほとんど) ない
パソコンのディスプレイにはもともと不良品でない限り「尿液晶」と呼ばれることはほぼありません。これはディスプレイの発色はパソコン側 (OS) で制御できるためで、Windows や Mac OS ではカラーマネジメント機能などと呼ばれています。
パソコンの場合、機種による発色の差はこのカラーマネジメント機能で調整、改善ができてしまうのでこういった問題は起こりにくくなっています。
一方、iOS や Android にはこのカラーマネジメント機能が用意されていないため、その機種固有の設定を変更、改善することができずそのまま「黄色がかった」「青色がかった」と評価されてしまっています。
「品質が低い=尿液晶」ではない
ディスプレイが黄色味を帯びて見えるからと言って、品質が悪いわけではありません。
初期不良として交換、改善することもできない場合がほとんどです。
(もちろん不良が原因の固体も存在します)
そもそも、色味の違う3つのスマホがあったとして、ちょうど色味が中間に見えるスマホは「尿液晶」でしょうか。より黄色味を帯びた液晶と比較していたとしたら「尿液晶じゃない」けど、より青みを帯びた液晶と比較した時は「尿液晶」って呼ばれてしまうのですかね。変な話です。
色の見え方の差は品質の差だけが原因ではありません。
見え方の違い
モノの色の捉え方は人によって異なります。
色の見え方は人種によっても違います。目の光彩の色が違うと光のとらえ方が変わるため、欧米人は青色を強く感じ、日本人はより黄色を強く感じるといわれています。
蛍光増白剤というものがあります。ワイシャツや洗剤、車の塗料などに使われる染料の一種で、これを使うと黄色い光の反射を抑えることができ若干青みがかった発色になります。そうすることで、人は (特に日本人は) その色が特に「白い」と感じるようになります。
でもそれは本来の「白」ではないんですね。欧米人には少し青みがかった白に見えているかもしれません。
結局はユーザーの好みの差にあわせて、「白」をどう見せるかは生産者によってコントロールされています。
尿液晶と感じるひとつの原因は「色温度の違い」
ディスプレイを通して観る映像コンテンツも同様です。
モノには決まった色があります。それは光の反射によって知覚することができますが、光そのものの色の違いにより知覚される色が変わってしまいます。
パソコンやスマートフォンでは、映像をより現実に近い色に再現するために、その「光 (光源)」をどの基準で発色させるかを変化させることができます。その基準を表す数値が色温度です。
色温度を変更することで、ディスプレイの発色を変化させることができますが、では色温度をある一定の数値にすることですべての人が同じ「白」に見えるか、というとそうではありません。知覚のされ方に違いがあります。
白昼の太陽光は 5,000K~6,500K の色温度と言われていますが、試しにこれでディスプレイを設定してみるとかなり黄色味を帯びた色に感じるかもしれません。実際野外で見た白い物体は色は同じような色として知覚しているはずなのに、より青みがかった色温度で設定したほうが「白」に見えてしまうことがあります。
日本では、アナログテレビの映像企画が 9,300 K の色温度を標準とされていたため、より色温度の高い白を好む傾向があるともいわれています。色温度の高い蛍光灯が日常の光源として多く使われているのもこの後押しになっています。
これは自然界の、太陽光の下の「白」と比較しても不自然な白だったりするんですね。
日本人はこの変な「白」に慣らされてきた、というわけです。
意図的に設定されているものもある
最近では Nexus 5X や Nexus 6P、iPhone 6s、Xperia Z5 に始まり、いろいろなスマホで「尿液晶」が騒がれていますが、海外メーカーや海外向けのグローバルモデルはむしろ利用者に合わせて意図的にキャリブレーションしているものが多くあります。
ソニーのXperia シリーズとか、国内メーカーの国内向けモデルなんかは日本人の好みに合わせて青みがかったキャリブレーションをしているんじゃないでしょうか。海外の人はこれをみて「不良品」と言うかもしれません。
※ 個体差が原因のものを肯定する話ではありません。品質のばらつきは企業努力として抑制されるべき。
青白い液晶が良いのか
もちろん、個体差のばらつきや粗悪品が存在するのも事実だと思いますが、色温度のキャリブレーションと混同してまるごと「尿液晶」と揶揄するのは違和感があります。
最終的にはスマホ向けの OS でカラーマネジメントができるようになって、ユーザーの好みに補正できればそういった声も小さくなるのでしょうが。
低めの色温度でキャリブレーションされた液晶、私は好きですよ。というお話でした。
蛇足:「尿液晶」という用語が酷い
なぜか日本語では黄色はネガティブに表現されるケースが多い気がします。「黄ばんだ」とか。一方で青みがかった色を揶揄するような表現ってないですよね。
色の相対的な差なのに「黄ばんだでは」はネガティブに捉えられ、「青みがかった」にはそういう印象はない。
煽りにはこの上なく効果的な言葉ですね。。。